岐阜の長良川の近郊に「餅蔵さん」と呼ばれる和菓子職人がいました。
もっと美味しい和菓子をつくれないかと、いつも考えている餅蔵さん。
夕暮れ時、今日も和菓子のことを考えながら、長良川のほとりを散歩していると、川の中にぼうぼうと燃える篝火を灯した一隻の船が見えます。
うす暗い川面に目を凝らすと、鮎漁(鵜飼)をしている
鵜匠さんが見えてきました。
火の光に照らされた水面、たくみに操りられる鵜たち。
うっとりと眺めていると、ふと和菓子のアイデアが浮かんできました。
「鮎の形の和菓子はできないだろうか?」
その日から餅蔵さんは、鮎の形をした和菓子づくりに取りかかります。
もちもちした求肥(お餅)を、ふんわりとしたカステラ生地に包んみかわいい笑顔の焼印で出来上がり。
餅蔵さんは、その和菓子を「鮎菓子」と名づけました。
出来上がった鮎菓子を眺めていると、不思議な光が迷い込んできました。
まばゆい光は、鮎菓子を見つけると、その中に入ってしまったのです。
しばらくすると鮎菓子が元気に動き出し、しゃべりはじめました。
「ぼくは和菓子の精、鮎菓子くん。 いっしょに和菓子の素晴らしさを、子供たちに伝えようよ!」
しかし、職人気質の餅蔵さんはとってもシャイで人前にでることが苦手です。
餅蔵さんが、あきらめの言葉を伝えようと思ったときです。
鮎菓子くんが不思議な呪文を唱えはじめました。
「ふ~あ~ゆ~、ひ~あ~ゆ~!!」
すると、まばゆい光の中から鮎菓子の仮面が現れました。
鮎菓子くんが餅蔵さんにいいましした。
「今日から君は、ひあゆ丸!この仮面をかぶれば、
誰が見ても君だとわからないよ。
さぁ、和菓子の素晴らしさを子供たちに伝えよう!」
餅蔵さんは驚きながらも、鮎菓子くんのくれた仮面をかぶり、ひあゆ丸となって和菓子の素晴らしさを伝える決心をしたのでした。